秋晴れの今日はまた、
気温も上がりました。
秋の日は釣瓶落としといい、
あっという間に暗くなってしまいますが、
その前の夕暮れ時は、ひと際
美しく、やさしく感じられます。
「夕ぐれの時はよい時」 堀口大學 (半紙)
夕ぐれの時はよい時
かぎりなくやさしいひと時
それは季節にかかわらぬ
冬なれば煖炉のかたわら
夏なれば大樹の木かげ
それはいつも神秘に満ち
それはいつも人の心を誘う
それは人の心が
ときに、しばしば
静寂を愛することを
知っているもののように
小声にささやき、小声にかたる‥‥‥
夕ぐれの時はよい時
かぎりなくやさしいひと時
若さににおう人々の為には
それは愛撫に満ちたひと時
それはやさしさに溢れたひと時
それは希望でいつぱいのひと時
また青春の夢とおく
失いはてた人々の為には
それはやさしい思い出のひと時
それは過ぎ去った夢の酩酊
それは今日の心には痛いけれど
しかも全く忘れかねた
その上(かみ)の日のなつかしい移り香
夕ぐれの時はよい時
かぎりなくやさしいひと時
夕ぐれの憂鬱は何所から来るのだろうか?
誰もそれを知らぬ!
おお! 誰が何を知っているものか?
それは夜とともに密度を増し
人をより強き夢幻へとみちびく
夕ぐれの時はよい時
かぎりなくやさしいひと時
夕ぐれ時
自然は人に安息をすすめるようだ
風は落ち
ものの響きは絶え
人は花の呼吸をきき得るような気がする
今まで風にゆられていた草の葉も
たちまちに静まりかえり
小鳥は翼の間に頭をうずめる‥‥‥
夕ぐれの時はよい時
かぎりなくやさしいひと時
明星派の歌人、詩人、翻訳家であった
堀口大學の第一詩集
『月光とピエロ』におさめられた詩。
堀口大學は、フランスの詩にも親しみ、
その美しい訳詩集『月下の一群』がよく知られています。
大學の雅号は、”十三日月” ということで、
夕ぐれとともに、美しい秋の月も、
愛でたいもの。
もっとも、
ただ今、23日の下弦の月から
31日の新月に向かっているところでしたね。
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